HAYASHI LABORATORY 早稲田大学 理工学術院 先進電気エネルギーシステム研究室

RESEARCH 研究紹介

スマートグリッドのデザイン研究 発電・送配電運用の高度化 消費のスマート化 機械学習論の適応

快適な暮らしを維持しながら省エネを実現する理想の未来像「次世代EMS」

近年、低炭素で持続可能な社会の構築といった観点から、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー電源の導入が拡大しており、今後もさらに拡大することが予想されます。しかしながら、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー電源は、発電出力が天候に左右されることから、電力の安定供給、電力品質維持という観点から課題があります。

林研究室では、こうした再生可能エネルギー電源が多量に導入された際の、① 発電・送配電運用の高度化に関する研究、② 消費のスマート化に関する研究、③これらの研究テーマへの機械学習論の応用に関する研究を通して、低炭素で持続可能な社会の構築を目指します。

スマートグリッドのデザイン研究

  • 発電・送配電運用の高度化 発電・送配電運用の高度化
  • 消費のスマート化 消費のスマート化
  • 機械学習論の適応 機械学習論の適応

発電・送配電運用の高度化

(A)太陽光発電が連系された配電系統における電圧制御に関する研究

太陽光発電の電力系統への連系量が拡大すると、電力系統内の電圧管理が困難になることが懸念されています。林研究室では、電圧制御器であるLRT(負荷時タップ切替装置)・SVR(自動電圧調整器)・SVC(静止型無効電力補償装置)・蓄電池等の制御ロジックの開発や、リアルタイムで得られる電圧等の計測情報から電圧を高度に管理する手法の開発と評価を行っています。

+ MORE + CLOSE
  • 次世代先進グリッド実験模擬装置ANSWER (Active Network System With Energy Resources)

コンセントにくる電気の電圧は101±6Vと決められており、この範囲を電圧が逸脱したまま家電製品を使用すると、家電の故障や火災の原因となる恐れがあるため、電力会社は電圧を適正範囲内に維持する必要があります。太陽光発電の出力が大きければ大きいほど系統内の電圧が上昇し、小さいほど電圧が降下するため、太陽光発電の導入が進むほど、電圧変動に与える影響も大きくなります。開発した制御手法の電圧制御効果は、林研究室が所有する、実際の電力系統を模擬できる実験設備、ANSWER(Active Network Simulator With Energy Resources)を活用して評価することができます。

(B)送配電損失最小化に関する研究

発電された電気が需要家に届くまでに、一部の電力が配電線の熱として失われます(電力損失と呼ばれ電流の2乗に比例します)。一方、配電線には多数の開閉器が設置されており、これらの開閉器のオン・オフ状態を変化させると、電流の潮流状態が変わり、電力損失が変化します。低炭素社会の実現といった観点からは、電力損失はできるだけ小さくなることが望ましいのですが、実用規模の配電網を対象とすると、開閉器状態の候補数は膨大になり、最適な開閉器のオン・オフ状態を探すのには天文学的な時間がかかります。林研究室では、電力損失が最小となる開閉器のオン・オフ状態の決定手法を開発しています。

(C)再生可能エネルギーが連系された電力系統における発電機制御に関する研究

風力発電・太陽光発電が連系された電力系統では、系統安定度を維持しつつ、需給バランスを調整するのが難しくなります。林研究室では火力発電等の最適な出力配分の決定方法について検討しています。

+ MORE + CLOSE

発電機から供給される電力と需要家が消費する電力は常に同量でなければならないため、電力系統に連系された風力発電・太陽光発電の出力が変化した際には、火力発電機等の出力を変化させることで補償しなければなりません。この際、どの火力発電機の出力を変化させるかによって、電力系統内の潮流状態が変化し、送電線の混雑状態や電圧安定度、送電損失、残存調整力などが異なります。林研究室では、発電機の出力分担や、系統内の調相設備・変圧器制御を最適化する研究を行っています。

再生可能エネルギーが連系された電力系統における発電機制御に関する研究

消費のスマート化

(A)住宅内のエネルギーマネジメント(HEMS:Home Energy Management System)

住宅内の各機器の消費エネルギー量をリアルタイムで把握し、居住者の快適性・利便性を維持しつつ、エネルギーコストを削減するように蓄電池や燃料電池、ヒートポンプ、電気自動車、エアコン等を自動制御する手法を構築しています。

+ MORE + CLOSE

家庭における消費電力量は年々増加傾向にあり,低炭素化社会を目指していく上で家庭部門での省エネが重要となってきています。電気料金や太陽光発電量、居住者の生活を考慮しながら蓄電池やエアコンの運転を自動制御し電気料金を削減する手法のほか、需要抑制や太陽光発電抑制の要請があった際に、居住者の快適性を維持しながら、自動で消費電力を制御する手法の構築と評価を実施しています。

住宅内のエネルギーマネジメント(HEMS:Home Energy Management System)
スマートハウス
住宅内のエネルギーマネジメント(HEMS:Home Energy Management System)
HEMSイメージ

(B)ビル内のエネルギーマネジメント Energy Management System)

ビルにおけるエネルギーマネジメントの実現にあたって、フロア内での作業効率に影響を与えない範囲での更なる省エネルギー化が必要とされています。人間の電力需要行動を把握するため、フロアに設置された人検知センサ情報や各種モニタリング情報に基づき、人の滞在箇所の把握の高度化や行動パターンの解析を行っています。また、把握情報を利用した照明・空調機器の省エネルギー化を検討しています。(Active Network Simulator With Energy Sources)を活用して評価することができます。

(C)地域間のエネルギーマネジメント

太陽光発電の出力に合わせて、ガスエンジン等の分散電源の運転計画や蓄電池の充放電計画を最適化し、ビル・工場・住宅などを含めた地域内のエネルギーを管理し、地域単位のエネルギー消費量やエネルギーコスト、二酸化炭素排出量を最適化する方法論を構築しています。また、地域間の電力融通も考慮することで、複数エリアにおける電力需要のピークカットを実現する方法論も構築しています。

地域間のエネルギーマネジメント Energy Management System)
機械学習論の適応

機械学習論の適応

(A)太陽光発電・風力発電出力予測

太陽光発電や風力発電の出力を正確に予測することは、発電出力が天候に左右される太陽光発電や風力発電の導入量が拡大された電力系統の運用や、住宅・ビル・コミュニティのエネルギーマネジメントの高度化のためには不可欠です。短周期変動からランプと呼ばれる出力の急変が起こるタイミングと変動量まで、確率・統計的な理論にもとづく機械学習と呼ばれるアプローチを使った予測手法の構築・評価をしています。

(B)機器分離

住宅におけるエネルギーマネジメントとして、家電ごとの消費電力量の見える化が進められています。家電ごとの消費データを提示することで、需要家に節電を促す効果が期待されます。見える化を最小限のコストで実現するにあたって、家電ごとに個別のセンサを設置するのではなく、スマートメーターで観測される総消費波形のみから、家電ごとの消費波形を分離する手法の開発を行っています。